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長崎県教育センター Web情報 第380号 (平成26年10月3日)

教育相談室

教師が知っておきたい相談技法

ブリーフセラピー「解決志向アプローチ」について

 

 私たちは学校生活のいろいろな機会をとらえて面談や相談活動を行い、子ども理解を目指しています。相談活動は、子どもの悩みや胸の内を聞いて終わりとは限りません。例えば、進路についての面談、不登校傾向の子どもが教室復帰に取り組むときなど、その子が抱えている問題の解決に向けて具体的な行動を促すことで、支援していくような局面もあります。

そのようなときに、解決すべき課題について過去の「問題」や「原因」に焦点をあてずに、教師と子どもが共同して解決策を模索し解決策を構築していく、「解決志向アプローチ」(Solution-Focused Approach)というカウンセリングの技法が役立ちます。「解決志向アプローチ」は「短期療法」「ブリーフセラピー(Brief Therapy)」と呼ばれる心理療法のひとつです。以下に、その考え方を紹介します。

 

1 基本的な考え方

 「解決志向アプローチ」を使って相談活動を行うときには、次のような発想を前提とします。

 

 人は何かの問題を解決しようとするときに、その問題の「原因」をなくせば問題が解決すると考えがちですが、仮にその「原因」を特定できたとしても、必ずしもそれで解決に至るとは限りません。「解決志向アプローチ」では、それよりも、「この子はどのようになりたいのだろうか」「どのようになったら解決したと言えるのだろうか」というような、子どもの未来像について思いを寄せます。その際に、「人は変わることができる」と信じて子どもに接していくことが大切です。

 「問題解決のためのリソース」というのは、その子ども自身が持っている能力や興味などの内的なものもあるでしょうし、家族、友人といったような、子どもの周囲にある外的なものも考えられます。それらを探り出し、引き出していく際に、「この人の中には、絶対に、この件を解決に導く宝物がある」と考えて接し、また、本人が自分で取り組んでいけるように支援をしていきます。

 
2 三つの中心哲学

 以下にあげる三つは、「例外」を解決策へとつなげて考えるための、解決志向アプローチの「中心哲学」(ルール)です。「例外」というのは、いつもなら問題が起こるはずなのに起こらなかった、というときであり、相談者にとっては好ましい状況です。その状況は『すでに起こっている解決の一部、あるいは例外的に存在している解決の状態』であると考えます。問題の解決策を考えていく際には、「今できていないこと」よりも、「例外」の中から「できること」を見つけていきます。そのような「例外」的に良い状況には、子ども自身も気が付いていないかもしれません。

 

 例えば、不登校傾向にある子どもの教室復帰が解決すべき課題ならば、「なぜ教室に入れないのか」を掘り下げるよりも、「どのようなときなら入れたのか」について、子どもと一緒に具体的に考え、次に教室に入れるように行動を支えていく、ということになります。面談を通して、教室に入れた条件がひとつでも明らかになったならば、その状況はその後も続けていこう、と支援します。子どもとやりとりをしながら、子どもとともに具体的な目標設定を行えるような関係づくりを目指したいものです。

 ここで、目標というのは

 ・大きなものではなく、小さなものであること(スモールステップで)

 ・抽象的なものではなく、具体的な行動の形で示されること(○○をする、という風に)

 ・否定形ではなく、肯定形で示されること(○○しない、ではなく、○○をする、という風に)

を考慮しながら、具体的なことを設定していくことが大切です。

3 相談活動で有効な質問

相談活動では相談者の持つ「リソース(資源)」や問題に対する「例外」を引き出す質問を、以下のように進めていきます。

 
 

 このように「小さな変化が大きな変化につながる」ことを信じて、相談者である子どもの未来の姿を思い、その解決策の構築や具体的な目標設定をともに行う「解決志向アプローチ」の手法は、教師が行う相談活動で、大いに役立つと思われます。より充実した支援を目指して、ご活用ください。

 
 
参考文献
宮田敬一編(1994)『ブリーフセラピー入門』金剛出版
米田薫(2007)『厳選!教員が使える5つのカウンセリング』ほんの森出版
森俊夫(2000)『先生のためのやさしいブリーフセラピー』ほんの森出版
栗原慎二(2001)『ブリーフセラピーを生かした学校カウンセリングの実際』ほんの森出版
諸冨祥彦(2014)『新しいカウンセリングの技法 -カウンセリングのプロセスと具体的な進め方-』誠信書房